2007-09-04

行動の選択

計見一雄が引用するリベの主張で「非選択が自由意志を支えるものだ」という論文があるそうだと「ノーテンキ」というエントリーに書いたが、このほど読了した酒井邦嘉著「言語の脳科学」において、同じようなことが書かれているくだりに出会った。(同書210ページ)
人間の言語野では、入力制限のためか、それとも言語野固有の原因により、大脳皮質一般の機能が制限されて言語しか処理できないように特殊化していると考えてみよう。機能の一部が制限された方が進化的に高等だというのは、一見無理があるように思えるかもしれないが、実は理にかなっている。それは抑制性の機能を持つ遺伝子(他の遺伝子の発現を制御する遺伝子のひとつ)が新しくつけ加わったためだと考えられるからである。突然変異によって、もともとチューリング・マシン並みの能力を持っていた大脳皮質の機能の一部が抑制されたとする。その結果が文脈依存文法の能力だとすれば、自然言語に最適な計算ができるようになったことが理解できる。
したがって、これら二つの記述から想定できるのは「ノーテンキ」でも書いたように、人間の能力の限界は観察されるよりはるかに大きくて、ただ、目前の局面にふさわしいたったひとつの行動を選択するということのために、考えられるあらゆる可能性が背後でシミュレーションされているということなのだろう。
行動を抑制する遺伝子の存在が多様性の発現の基にあるというこれらの研究は非常に説得力がある。